プロトスター株式会社 代表取締役CEO 前川英麿さん(35歳)

早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、ベンチャーキャピタルのエヌ・アイ・エフSMBCベンチャーズ(現大和企業投資)に入社。その後、常駐の経営再建支援に特化したフロンティア・ターンアラウンドに入社。15年2月よりスローガン株式会社に参画し投資事業責任者としてSlogan COENT LLPを設立。16年11月に起業家支援インフラを創るべくプロトスター株式会社を設立。青山学院大学「アントレプレナーシップ概論」客員講師、経済産業省先進的IoTプロジェクト選考会議審査委員・支援機関代表等。

2020年代の最初の年は、世界的なコロナショックのもと、ビジネスを取り巻く状況が大きく変わりました。将来不安が増す一方、新たなチャレンジに取り組む動きも各地で起こっています。

5年前の2016年に起業し、ベンチャー企業の成長支援に取り組んでいる前川さんに、組織変革と働き方改革を中心に、イノベーションへの考えをうかがいました。
(聞き手:間中健介)

2020年代は“個の時代”

――2020年は“コロナ”による激動の年になりましたが、2020年代の10年間の時代をどう捉えていますか?

(前川)2020年代の10年間は“個の時代”に向かっていくと捉えています。デジタル化が加速して個人の活動量が大幅に拡大するとともに、あらゆるビジネスでより一層のスピードが要求されていきます。ビジネスのスピードを上げるためには意思決定と実行を速めなければいけませんが、組織が大きくなるとそのスピードが鈍化します。2000年前後のIT革命時から言われていることですが、企画を思いついたら即座に実行できる能力を持った個人と、その個人を起点としたチームが、ビジネスの主流を作る時代になっていくでしょう。

仮想通貨の登場で“国家対個人”と言いますか、“非・中央集権”の概念にも関心が集まっています。“個”と“非・中央集権”に関心が集まる時代に、組織の意思決定の仕組みをどう変えていけばよいのか。どの企業でも価値観が揺れ動いていると思います。トップダウンでいくのか年功序列を残すのか、あるいは一部のスタートアップ企業のようにメンバー全員フラットにするのか。面白い時代であり、難しい時代だと思います。

――ある大手アパレルの役員と話したところ、最近は2週間ごとに新商品を投入する感覚が求められているそうです。10年前は季節ごとに新商品を出していたので6倍速になっている。

(前川)スピードが求められ、個人が活躍できる時代という前提に立って、組織の意義を再発見したいです。

カンパニーの語源は「パンを分け合う人たち」です。では何人で分け合うのが良いのかを考えてきたのですが、私自身の経験からも、ジェフ・ベゾス氏(Amazon.com創業者)が言うように、ピザ2枚を囲む人数でミーティングをするときが一番盛り上がります。つまり7-8名です。大人数のミーティングになると参加者が受け身になるので創造性と実行力が生まれません。大組織のなかに“ピザ2枚チーム”を作って実効的に機能させていくということが、コロナ以降の日本経済にとって大事になる気がします。

――個人の時代ではあるが、資本蓄積をする主体としての大組織は不可欠だし、大組織が健全にならなければ人材は育たないしイノベーションも生まれません。スタートアップ企業の支援者である前川さんは、大組織をどのように“個の時代”にフィットさせていくべきと考えますか?

(前川)大企業が“個の時代”にフィットするためには、大企業のベンチャー投資拡大と、投資の意思決定スピードが速まる必要があります。大企業マネーはベンチャー育成の最大の柱です。CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)による投資も増えていますし、独立系VCに投じられている大企業マネーも増えていますが、規模はまだまだ小さい。VC業界では更に「年金など機関投資家のお金がベンチャーに投じられるようになるべき」という議論も出ています。

――一般財団法人人ベンチャーエンタープライズセンター(VEC)によると2019年度の日本のVCによるベンチャー投資額は2,833億円で、米国の約14兆円にはるかに及ばない。5倍に増えたとしても米国の10分の1に過ぎない。

(前川)スピードについて言えば、CVCを別会社にして投資委員会で迅速に意思決定することが求められます。ベンチャー投資ってハイリスクでしかありませんから(笑)、大人数で意思決定するとリスク回避的な意見とのすり合わせが生じて、結論が丸くなっちゃいますよね。

失敗が許されない社風のままベンチャー投資するという矛盾を追求するのではなく、社風の影響を受けないCVCや「出島」が中心になって新規施策を進めるのが現実的と思います。

――出島は本社とは全く違う文化にする必要がありますね。社内用語とか慣行、系列、学閥とかが通じないようにする。物理的にも出島は絶対に本社と違うビルに置くべきですね。

(前川)大企業の人材は間違いなく優秀です。出島を通して大企業とスタートアップ企業との協業が増えてほしいですし、出島暮らしを経験した大企業人材が起業家の世界に入ってくることも期待しています。

そのためにも、出島にチャレンジマインド豊富な社員を集めるのはもちろんのこと、権限と予算をしっかり措置することが重要です。

最初の乗客がバスの空気をつくる

――前川さんはどのようにしていまの組織を立ち上げたのですか?

(前川)前職のスローガン株式会社で担当していた事業をMBOし、2016年11月に株式会社化して独立しました。創業時は2名で、現在は15名ほどの正社員のほか、インターンや業務委託の人材など総勢50名ほどのチームになっています。

事業の拡大の過程で、私はメンバー選びにこだわってきました。『ビジョナリーカンパニー』(ジム・コリンズ著)の2作目に「誰をバスに乗せるか!?」という件(くだり)があるように、会社のカルチャーを作るにはミッションよりもメンバー選びがより重要と思っています。最初の20人に誰を採用するかでカルチャーが決まります。

ベンチャーにとってスキルの高い人材はもちろん必要ですが、より重要なのは、マインドが一致し、互いのマインドを高められる人材です。VCからの資金調達が成功すると採用は気軽に出来るようになりますが、やみくもに「営業を5人増やそう」ということをしては会社が壊れます。

当社は小さな企業ですが、インターンを経て新卒で入ってくれている社員が少なからずいます。第1号社員がまさにそうです。マインドが一致している若者が入社してくれて、みんながカルチャーを作っています。

――生産性についてのお考えを聞きたいです。経営者としては社員が10時間かかっていた作業を8時間で出来るようになるだけでは生産性向上とは言えず、新たな価値を創出してはじめて生産性向上の実現と言えます。

(前川)社員には「Showリーダーシップ」を期待しています。5人でやるプロジェクトのときは5人全員がリーダーであるべきと言っています。フォロワー気分ではなくリーダー体質でプロジェクトに向き合うことが、生産性向上を含めて高いバリューを生み出すことにつながると確信しています。

大企業人材を事業家に

――給与所得者の兼業・副業が広がりつつあります。私としては、月数万円程度の副業推進ということに留まらず、副業をきっかけに事業家を目指すサラリーマンが増えてほしいと思っています。私自身も小さな組織を運営していますが、経営者側から見ると、仕事の相手が事業家なのか労働者なのかは、大きな違いがあります。

(前川)当社の第1号社員がインターン経験者であるとお話ししましたが、どんな起業家も創業初期段階で正社員を雇うことには躊躇があると思います。事業がうまくいく保証がないのに給料は固定的に払わなければいけませんし、社員教育のためのリソースもありません。そのため、大企業の社員に副業として参画してもらえるようにしたり、学生にインターンをしてもらえるようにすることは、人材戦略上とても重要です。

“個の時代”と申し上げましたが、力のある個人は副業をきっかけに事業家に転じるはずで、むしろ副業をやり続ける人が少数派になると思います。

それぞれの人材の特性があるので全員が事業家になるべきとは思いませんが、100人の副業人材の数%だけでも事業家に転じれば、日本はもっと成長しますよね。

――政府では昨年末から「企業組織の変革に関する研究会」が開催されています。そのなかでサバティカル制の導入、若手登用などの議論も出ています。私自身も過去に「すべての社会人対象のリカレント・ジョブトレーニング支援制度を設けるべき」という提言を政治家に渡したことがあります。若手登用について言えば、歴史ある大企業においても、実際に登用されて実績を上げている若手が増えている気はします。

(前川)サバティカルが制度として必要かどうかはわかりませんが、組織のなかで小さくまとまらざるを得ない人たちが将来展望を持てるようにする工夫は必要かもしれません。

若手登用は望ましいと思いますが、年齢はそもそも関係がないと思います。80歳でも若者以上にイノベーティブな人はいます。ただ、現状では、過度に年配者が優先されすぎている気はしますので、意図的に若手登用をする必要はあるかもしれません。

ベンチャーの世界ではむしろ「肩書インフレ」が起こっています。20代の役員は珍しくありません。ではそれが何らかの弊害をもたらしているかというと、特に大きな問題は出ていません。

国主導で失敗を推進する

――前川さんの周りには成長力に満ちた人が大勢いらっしゃいますが、成長を期待していない若手ビジネスパーソンも少なくありません。私の団体が30代・40代を対象に実施した調査では、5年後の自分自身の年収が今よりも増えないという回答が65%を占めています。

スタンフォード大学のエドワード・ラジアー(Edward Lazear)教授らの研究『Demographics and Entrepreneurship』のなかに、日本企業では20代半ばから30代前半の時期にマネジメントポジションに就く機会が非常に限られており、そのことが国全体の人的資本蓄積を妨げ、アントレプレナーシップの低さにつながっているとの指摘があります。「若い頃の苦労は買ってでもしろ」という言葉がありますが、買いたくても売っていないんですよね。そうなると成長への期待なんて持てなくなる。

(前川)“成長期待格差”は拡大していると思います。力のある個人にとっては良い時代だと思う反面、成長志向ではないけれども淡々と頑張ってきた人たちにとって、ラクではない時代になるのかもしれません。

スタートアップ企業の世界では当然のことながら失敗は是とされていて、みんな大失敗を繰り返します。どんな組織においても若い人材に権限と予算を与えて大失敗をさせていけば良いと思います。

その点では、総合商社は人づくりが上手いと思います。若手を積極的にプロジェクトチームリーダーに登用したり、他組織に管理職ポストで出向させたりするなど、チャンスを得られる場面を作っています。

――5人のうち1人でも覚醒すれば大成功ですよね。日本企業の人材流動性は一昔前よりは高まっていますが、多くの有能な人材が組織内に留まって働いています。組織内どころか同じ部門に留まっている人材も少なくありません。それでも本人が成長できれば良いのですが、希望するキャリアが描けないのにずっと同じ部門に留まらざるを得ないとすれば非常に勿体ないです。

よく「ジョブ型かメンバーシップ型か」の議論がありますが、私は、高度なジョブ能力を持った人材がメンバーシップ型で働く組織を作ることが大事と考えます。米国だと民間企業と大学と政府部門を行き来する「回転ドア人材」が一定数いて、そのなかから国の発展を支える人材が出ています。著名な経済学者は政府機関での勤務経験がありますし、閣僚やホワイトハウス上級職者には企業経営経験者が少なくありません。彼等はジョブ型でもメンバーシップ型でもなく、高いジョブ能力とメンバーシップ能力の両方を獲得して、高い業績を上げてきたということだと思います。

(前川)日本にも回転ドア人材はいますが、人材層としては非常に小さいですよね。その点では大学も政府も企業に人材を出したり、あるいは企業人材を受け入れたりする動きがもっと増えても良いと思います。そのなかから5人に1人でも覚醒すれば本当に大きな価値になりますね。

スタートアップ企業のコミュニティでは、いまデジタル庁が話題になっています。行政のデジタル化が進めばデジタル市場は飛躍的に発展し、スタートアップ企業による画期的なサービス開発が加速します。そのプロセスで、デジタル人材が回転ドア人材となって政府でイノベーションを興すようになってほしい。

国への要望が1つだけあります。スタートアップ企業は社会的信用を得るために膨大な時間を使っていますので、5万円とか10万円程度の金額の仕事でよいので、スタートアップ企業が国の事業に参画できるような機会を提供してほしいです。国の信用をほんのちょっとだけ分配してもらって、ほんのちょっとだけ失敗を経験させてもらう。それができたら、本当に面白い時代をつくれちゃうと思います。