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 初めにイノベーションの概念や重要性を説いたとされる経済学者のシュンペーター(Joseph Alois Schumpeter)によれば、本来のイノベーションはもっと広い概念を指している。1912年、29歳の時に著した代表作『経済発展の理論』の中で、「新結合」という言葉を使い、イノベーションの概念を提示している。即ち、組織「外」の知見を取り入れることで新たな価値の想像を図る「オープンイノベーション」も、元を辿ればシュンペーターの「新結合」、つまりイノベーションの概念に立ち返ることが出来ると言える。そしてそれは、イノベーションが成功すれば会社の発展に繋がると昔から考えられてきたからこそ、経済学の根幹を成す1つの要因として「イノベーション」が取り上げられてきたと言えよう。

 ワイガヤの祖と名高いホンダ出身の技術者・小林三郎さんによれば、イノベーションの成功率は1勝9敗、しかし企業が大きく成長する時、その確率は2割を越すという。
 そして、企業がその確率を少しでも高めようとする時に起きがちなのが「勝手に」やってみようとすることだ。

自由・・・「法律や決まりの範囲で、自分で考えて行動できる権利」
勝手・・・「他人のことは考えず、自分の都合だけを考えること」

 つまり、この二つには大きな違いがあるが時としてイノベーションを起こそうとすると「勝手」に行動する人が散見されるのが現状である。
 例えば、情報開示を1つとってもそうだ。社内の手続きも面倒なため、「オープンイノベーションなのだから、上司の許可なく情報を公開しても構わない」と社内資料を相手に公開してしまう。
 相手もそこに悪意なく、情報を受取り、またその情報を別の第三者に受け渡ししてしまうのだ。企業規模が大きい会社であれば、社内技術でも様々に守られるだろうが、ベンチャーなどの場合には、法務などを手厚く出来ていない場合もあり、逆に別の企業に情報を取られてしまい、それを実際に「自社の新技術です」と世の中に売り出されてしまった例は、一定数存在する。
 新しいこと=ルールなんて関係なく、とにかく今まで行われていないことをやってみる!と、突然にルールを逸脱してしまう思考形態になってしまう人も多い。だが、イノベーションは今の土台となる社会構造や様々なルールを前提として起こさない限りは、それが社会に定着することは愚か、発想が良かったとしても受け入れられないことも往々にしてあるのだ。

 イノベーションを起こすためにそれを阻害するルールが多いのも事実だ。だが一方で、そのルールを無視しても良いか?と言われると、その意味ではない。現状として、ルールは柔軟に変わってほしいという願いはあるが、それはルールを逸脱しても良い、という訳ではない。
 だからこそ、イノベーションを起こすための両輪として「自由」を保持するために、「マネジメント」と呼ばれる要素も非常に重要な観点であると考える。
 そしてそれは、組織風土や組織のなかでのマネジメント層に期待される役割にも反映されると言える。イノベーションには失敗がつきものだ。多くの失敗の中に、ダイヤの原石となるものがあり、それについて周囲が反対しても「YES」とマネジメント層が言い抜けるのか、それこそがイノベーションの成功の鍵と言えよう。
 私たちを取り巻くトレンドは、凄まじい勢いで進行しもはや何がトレンドとなるのか、の予想を立てることは、非常に難易度が高い。イノベーションは、10人中9人が「良い」と言ったら、もうそれは遅いのだ。

 小林三郎さんは「40歳以上は、マネジメントのエキスパートとして若い年代の『やりたい』を実現出来るようにするべきだ」と説く。「自由」と「勝手」を判別し、若手を導いていくことも、マネジメントには求められる要素だ。
 イノベーションを起こそうと躍起になった時、人は往々にして視野が狭くなってしまいがちだ。だからこそ、少し俯瞰で物事を捉えて組織や挑戦を引っ張っていく、そして本当の意味での挑戦の場を支えるマネジメント層の存在が、イノベーションを成功に導くには、絶対的に必要な存在であると言えよう。

 イノベーションは、ユニークな本質の発掘だ。時として、経営学や経済学などMBAなどで習得する知識がそれを阻害する可能性もある。だが、基礎知識や守るべきルールが分かっている、という前提の上でユニークか、どうかが判別がつく。
 だからこそ、マネジメント層は経験に裏打ちされた知識で、若手をサポートするべきであり、そのような意味でもイノベーションに「マネジメント」は必要な要素なのだ。

 経営学の父との呼び声高いドラッカーも、マネジメントの主要機能にイノベーションを組み込み、独自のマネジメント論を展開したことで知られている。長期にわたる企業経営においては、「イノベーション」という長期的視点と「マネジメント」という短期的視点の両輪を適切に管理、つまりマネジメントしていく必要がある、と説いている。これからの日本では、イノベーションを起こす企業の素養として、「挑戦する」ことを許容してくれるマネジメントの存在は、非常に重要な要素となるだろう。