小倉健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。小池百合子環境大臣(当時)秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。稲盛和夫、孫正義、柳井正、バフェット、似鳥昭雄などリーダー100人超を取材。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任。2021年7月に独立。現在に至る。

今回は、デジタルの定期購読、いわゆるサブスクリプションが成長の踊り場に入ったこと。そしてメディアの未来についてお話ししたい。

このサブスクは未来永劫成長を続けるという「サブスク神話」の終焉のきっかけは、終わりが見え始めたコロナ禍と、エネルギー高騰にともなう不景気の到来、もしくは不景気の到来の予感である。

日本のメディアだけでなく、アメリカのワシントンポスト紙(WP)やニューヨクタイムス紙(NYT)も、「サブスクを節約しよう」というコラムを頻繁に載せるようになっている。

「Subscriptions? In this economy? Free alternatives for watching, reading and listening. Thanks to creeping inflation, your monthly digital subscriptions might need some pruning」(「サブスクリプション?この不景気に?見る、読む、聴くの無料代替サービス。インフレの進行により、毎月のデジタル購読料が削減される可能性があります」WS・2022/4/22) という記事には、動画を無料で見る方法や、無料の図書館アプリをつかって、家計を守ろうと呼びかけている。WPもNYTも自分たちもサブスクをやっており、記事ではさすがにそこについての言及はない。

サブスク市場は2025年に2倍に拡大へ

実際に、サブスクの代表格でもある動画配信サイト「ネットフリックス」(Netflix)でも加入者が減ったことはマーケットを落胆させた。コロナウイルスが蔓延し始めた昨年第1四半期に、世界の加入者数が1,600万人近く増加した同社は、2021年1-3月期に400万人の増加を記録したと発表した。この数字は、1月に発表されたNetflix自身の同四半期のガイダンスに一部基づいて、アナリストが予測した600万人の加入者を下回るものだった。このニュースに投資家は落胆し、時間外取引の早い段階で株価は11%下落し、11月以来の安値である490ドルに達した。

また、日本でも有力なサブスクの一つの成長が止まった。日本経済新聞電子版の会員数が、2021年12月に79.7万人となり、2021年6月の81.2万人から「純減」してしまったのだ。成長ペースが落ちるのでなく、減ってしまったことは日経新聞社内だけでなく、メディア業界にも衝撃が走った。同社は、これまで「紙が減っても電子版が増えれば、利益は増える」という基本戦略のもと、売上が減っても利益が増えればいいという「減収増益」を目指してきた。このままでは売上も利益も減るという地獄が待っている。

このままサブスク経済は終わってしまうのだろうか。

決して、そんなことはないだろう。

コロナウィルスが大流行していた時期には、人類は、特に先進国ではみんなが、デジタル・エンターテインメントに熱中した。サブスクは、ほぼすべての業界でより広く、より深く浸透していった。

成長の鈍化は致し方ないとはいえ、今後も米・金融会社UBSは、これからもサブスクは成長を続け、2025年には市場規模は倍になると予測している。

WPには、元セールスフォース(世界一の営業支援システム会社)の最高戦略責任者で、ZUORA(世界有数のサブスク支援システム会社)の創設者でもあるTzuo氏が面白いコメントを載せている。 「(サブスクが増えている現状は)今は新しいので少し変に感じるかもしれません。しかし、ケーブルテレビが登場し、4チャンネルから150チャンネルになったとき、150チャンネルをどうすればいいのかわかりませんでした。その後、1,000チャンネルになった。人々はもっと多くのチャンネルを求めるようになると思う」

また、Tripadvisor社のKaufer氏は「コロナ禍があって、一般的な旅行者は、サブスクリプション商品・サービスを受け入れる準備ができていると思う 。一般的にサブスクは非常によくやっていて、年間ベースで消費者が何かにサインアップするという概念を教育している」と述べている。

コロナが終焉を迎えつつあり、また景気が悪化するような状態で、成長は止まっているのだろうが、サブスクでない業界はさらに景気悪化の影響をモロに受けている。止まっているように見えるが、世界全体はさらに地盤沈下していて、サブスク経済は健闘していると言って過言ではない。日本の出版業界も、これまで以上にデジタル化は進み、いよいよサブスクに舵を切るタイミングなのであろう。そして、これまでにないスピードでメディア業界が淘汰されていくことになる。

New York Timesのデジタル購読者は増加中

米国では、多くの出版社が新規購読者の獲得に成功している。NYTのデジタル購読者は最近600万人を超え、WPは約300万人、定期購読のニュースレターも目覚しい成長を遂げている。

一方で、米国の地方新聞はデジタルに投資する予算もなく、疲弊している。日本でも地方紙は疲弊しているし、業界を代表するような著名な雑誌を抱えながら、デジタル投資が遅れている中小出版社は多い。

米国において、そんな地方紙を救っているのが、アマゾン創業者ジェフ・ベゾスなどの億万長者だ。ベゾスはWPのオーナーである。ヘルスケア起業家のパトリック・スーン=シオンは、2018年にロサンゼルス・タイムズ紙を買収、セールスフォースCEOのマーク・ベニオフ氏は、タイム誌を所有している。

とはいえ、億万長者から報道機関への直接的な援助は、全国規模の報道機関や大都市の報道機関に集中しているのだ。投資家のバフェットも、2012年、全米の地方新聞63紙を買収したが、2020年には事業を全て売却してしまった。バフェットは、メジャー紙以外は生き残れないという判断をしたとされている。

日本でこれから起きることも同じことであろう。厳しい言い方をするようだが、特色もなく、知名度の低い地方新聞や雑誌は、デジタル化、サブスク化の時代にあって、淘汰される運命にあるということだ。

もし、あなたが、紙のまま、何の特色もない、そんなメディアに在籍をしているならさっさと転職なり、独立の準備をしておかねばならない。早くて5年、遅くても10年以内に淘汰の時代はやってくるはずだ。