間中健介

1975年生まれ。WITH所長、一般社団法人CESSマネージング・ディレクター、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任助教
衆議院議員秘書、創薬支援ベンチャー設立参画、関西学院大学非常勤講師、内閣企画官(成長戦略、DX、働き方改革)をへて独立。2021年以降、人的資本投資に関して日本公共政策学会、キヤノングローバル戦略研究所等で研究報告をするなど、人材とイノベーションに関する活動多数。経済学修士、経営修士専門職(MBA)
著作に『Under40が日本の政治を変える』(オルタナ、2009-2012)、『ソーシャル・イノベーション』(関西学院大学出版会、2015)など。
2013年以降、日本初の本格的な小児がんポータルサイト「CureSearch日本版」を開設運営(http://www.childrenscancers.org/)。
メアド:office<アットマーク>cess-media.com

高校生向け金融経済教育が2022年4月から拡充

「就職先から月給は20万円と言われた。毎月20万円までなら使って良い。〇か×か?」

こう問われれば、おそらくほとんどのビジネスパーソンは×と回答するでしょう。月給から税と社会保険料が引かれると手取りは1割ちょっと減りますので、月給ではなく手取りの範囲内に支出を収めなければ、借金に依存することになります。

これは金融庁が作成した教材「高校生のための金融リテラシー講座」に盛り込まれているクイズです。学習指導要領の改正により、2022年4月から高校生を対象とした金融経済教育が拡充されることになったことを受け、金融庁では中高生と教員・学校関係者、保護者向けの教育コンテンツを公開しています。

おカネは本来、人々の幸せな暮らしを支えるために開発されたものです。しかし、おカネが元になって犯罪が起きたり、仲間と険悪になったり、自分と家族の生活が脅かされたりします。そしておカネを管理して増やす能力の優劣によって、企業さらには国家の将来が左右されます。

高校生を対象にした金融経済教育が拡充されるこの機会に、ビジネスパーソンも金融・経済への関心を改めて高めことが求められます。投資に関心がない人も金融市場と無縁にはいられません。給与から天引きされている年金保険料のおおむね4割以上は国内外株式で運用されています。電気料金やガソリン料金はWTI原油先物価格の動向と密接にリンクしています。中堅規模以上の企業にお勤めの場合、営業損益以外に投資活動の成績が社員のボーナスに影響を及ぼすことがあります。バブルの頃には営業状況が良好にもかかわらず経営者の不動産取引の失敗で倒産をしてしまった会社も少なからずありました。

よく働き、学び直し(リスキリング)をし、暮らしを充実させる。
Well-beingのためにもビジネスパーソン版金融教育が広がることが大事です。

私としてもWITH流のビジネスパーソン版金融教育を考えていきたいと思います。

自分を世界市場とつなげる

世界経済は年率3%以上の成長を続けると見込まれています。リーマンショックやコロナショックのような危機は今後も起きるかもしれませんが、世界経済は常に危機を克服してきました。私たちは金融市場におカネを投じることで、世界経済の成長と同じ軌道を歩むことができます。

そのためのスタートが家計管理です。月々数千円でも投資資金を確保するために、格安スマホへの乗り換え、必要な保険の見極め、服飾品の節約など、家計を黒字にするためのアイデアを実行することは欠かせません。

次にポートフォリオの設計が重要です。金利変動がない場合、100万円の定期預金口座で20年後に得られる金利収入は約400円です。一方、100万円を投資信託で運用した場合、低利回りの国内債券型投資信託を除けば大半のケースで年間平均3~5%の利回りを得ることができ、税金を20%引かれても20年後に60.6~119.1万円を得られる可能性があります。投資信託などの金融商品には短期で見れば元本割れのリスクがありますが、3年以上の期間で見ればそのリスクはかなり低下することが各種調査で示されています。定期預金が持つ安全性と、その他の金融商品が持つ成長性をうまく掛け合わせれば、安全におカネを育てることが可能です。

職場で確定拠出年金(DC)に加入している場合、あるいは個人型DC(iDeCo)に加入している場合には、掛け金のポートフォリオをチェックしてみましょう。

バブル崩壊後の1990年代から2000年代にDCに加入した方たちのなかには、掛け金の大半を定期預金で運用している人も少なくありません。DCの掛け金は所得控除され、税率10%と仮定すると毎月9,000円の負担で1万円の積み立てができるとも言えますので、定期預金金利がほぼゼロであるとしても“利回り”は確保できます。

ただし、定期預金以外のポートフォリオを組み込めば、世界経済の成長軌道により深く参加することができます。50代半ばの方でも受給まで10年程度の運用期間がありますし、30代であれば30年程度の運用期間があります。年間1%の利回りの差は年月を経るほど拡大します(100万円を年利1%で30年運用すると135万円だが、年利2%では181万円になる)。

DCで扱われている金融商品はリスクゼロではありませんが、厳格な規律のもとで組成・運用されており、長期で着実な運用に適したものばかりです。DCに加入したまま長年ポートフォリオをチェックしていない人は、ぜひこの機会にチェックすることをお勧めします。

一攫千金が難しいことを知る

金融・経済への関心が高まり、世界市場の動向をウォッチするようになれば、自分自身の経済行動の選択肢が広がります。私は、このプロセスで最も重要なことは、“一攫千金”が難しいことを知ることにあると思います。

「100万円を5年で1億円に増やせる!」といった類の、投資を成功に導く虎の巻が書店にたびたび並んでいます。おカネを増やした著者の努力には敬意を表したいのですが、現実的に、ビジネスパーソンが働きながら日夜世界市場の動向をチェックし、信用取引を駆使し、資金を5年で100倍にすることは極めて困難です。仮にうまくハイリターンが得られたとしても、それによって自分自身の業務・活動に支障をきたし、周囲からの評価が下がってしまえば、失うものの方が大きいかもしれません。

ビジネスパーソンが金融・経済を学ぶ理由は、投資キャッシュフローではなく営業キャッシュフローを得ること。すなわち金融取引からの“一攫千金”を狙うのではなく、自分自身の稼ぐ力を高めることにあります。世界の投資家がどのビジネスに期待や悲観をしているのか、政府や中央銀行がどのような企業行動を促そうとしているのか、どの会社がどのような戦略投資を計画しているのか、どんな事業が縮小しているのか。個人としてのちょっとした金融取引を通してマクロ経済とビジネスの様々な知識を得て、自分自身の行動に新しい要素を入れていく。そして真摯な取り組みを積み重ねて経験や人脈の蓄積につなげていく。

5年後のトータルリターンを考えれば、金融取引で成果を得ることよりも、こちらの方がより大きな価値になっているはずです。右肩上がりの銘柄を追い求めるのではなく、自分自身に寄せられる期待が右肩上がりに増えていく姿を追い求めるようでありたいです。