小黒一正(法政大学教授)

1974年生まれ。京都大学理学部卒業、一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。1997年大蔵省(現財務省)入省後、大臣官房文書課法令審査官補、関税局監視課総括補佐等を歴任。2010年一橋大学経済研究所准教授などを経て、2015年4月から法政大学経済学部教授。この間、財務省財務総合政策研究所上席客員研究員、経済産業研究所コンサルティングフェロー、厚生労働省「保健医療2035推進」参与、内閣官房「革新的事業活動評価委員会」委員、会計検査院特別調査職、鹿島平和研究所理事、日本財政学会理事、新時代戦略研究所理事、キヤノングローバル戦略研究所主任研究員等を歴任。主な著書に、『日本経済の再構築』(日本経済新聞出版社、2020年)『薬価の経済学』(編著/日本経済新聞出版社、2018年)等がある。

コロナ収束に予断は許さないが、3回目のワクチン接種などの取り組みによって希望が見えることを期待したい。これからの日本経済全体を再生するために必要なことは、官民の領域にかかわらず、あらゆる分野のデジタル化であろう。コロナ禍初期に10万円の現金給付がスムーズにできず、この重要性に政治も気づき、2021年9月にデジタル庁が発足し、与党・政府はデジタル政府の構築に本腰を入れ始めた。

この動きは素晴らしいが、デジタル政府の構築は行政手続きのデジタル化が真の目的ではない。デジタル化は手段にすぎず、デジタル政府を構築する本当の狙いは、行政のサービスや組織全体の構造転換等を行い、質の高い行政サービスを実現することにある。

これは民間分野でも同様だ。バブル崩壊以降、日本経済は低成長が継続しているが、その脱却のため、大規模な財政政策や金融政策を打っても、日本経済がバブル崩壊前のような活力を取り戻せないのは、人件費等のコスト削減で対処し、必要な構造改革を怠ってきたためだ。その結果、我々の賃金は伸び悩んでいる。

実際、8年以上もの長期間、“異次元”の金融緩和を実行したアベノミクスでも、賃金はあまり上昇しなかった。むしろ、厚労省が定期的に公表する「毎月勤労統計調査」を眺めてみると、実質賃金指数(5人以上、季節調整済み)は、上下に若干の変動があるものの、2000年1月から現在まで、概ね緩やかに低下してきたのが現実だ。

他方、この期間、アメリカや欧州は大幅に賃金が上昇しており、特にアメリカの賃金が上昇してきた最大の理由は、2000年代以降急速に台頭したGAFAに象徴されるように、サービス産業のデジタル化が進んだためである。

しかし、いまからでも遅くはない。今後、日本経済は「2040年問題」に直面するため、我々は否応なしにデジタル化を進めなければいけない状況にある。なぜならば、これから生産年齢人口が急速に減少するからだ。

ちょっと前(2021年11月30日)、総務省が公表した「2020年国勢調査」(確定値)が話題となったが、その理由は生産年齢人口の減少スピードが衝撃的であることだ。1995年から2020年の25年間において、生産活動を主に担う生産年齢人口は約1,200万人も減少した。

ただ、これは、これから起こる問題の序章に過ぎない。国立社会保障・人口問題研究所の「将来人口推計」(平成29年推計、出生中位・死亡中位)によると、2025年から2040年という僅か15年間において、生産年齢人口(20歳ー64歳)が約1,000万人も減少する。これを「2040年問題」と呼ぶが、2025年に6,634万人となる生産年齢人口(20歳ー64歳)が、2040年には5,542万人にまで減少する。年間平均の減少スピードは約73万人であり、これは1995年から2020年における生産年齢人口の減少スピード(年間平均48万人)よりも大きい値である。すなわち、これから急速に日本は「人手不足」経済に変わることを意味する。減少する73万人という人口は、福井県(2020年の76万人)や徳島県(2020年の72万人)の人口のほか、東京都の練馬区(2021年の75万人)や大田区(2021年の75万人)の人口に近い。

この問題に対する一つの解決策は「積極的な移民の受け入れ」だが、この規模での受け入れを政治的に合意するのは極めて高いハードルとなろう。その場合、残された解決策は徹底的なデジタル化(例:ネット・ロボットの活用やコンピューター・機械化での徹底的な合理化)しかない。

デジタル化の鍵を握るのは人工知能・ビッグデータ・クラウド等の技術だが、2040年問題の克服に向けて官民の叡智を結集し、ブロックチェーン技術やセンサー技術・バーチャルエンジニアリング・暗号技術といった最新技術も駆使しがら、官民の領域にかかわらず、あらゆる分野の徹底的なデジタル化を推進し、労働生産性の向上や日本経済全体の抜本的な構造転換を図る努力が望まれる。

Virtual Engineering:加速するデジタル化、インダストリー4.0の到来
https://www.youtube.com/watch?v=-SFWaq2xyCw
企画・製作 Virtual Engineering研究会 一般財団法人鹿島平和研究所