連載【ビジネスリーダーのためのDX入門】第2回

小倉健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。小池百合子環境大臣(当時)秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。稲盛和夫、孫正義、柳井正、バフェット、似鳥昭雄などリーダー100人超を取材。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任。2021年7月に独立。現在に至る。

いろいろな人が「DX」を叫びます。DX関連の売り込みも多くあることでしょう。

とはいうものの、一般のビジネスリーダーは困っているのではないでしょうか。

「あまり人前では恥ずかしくて言いにくいが、いったいぜんたい、このDXとは何なのか。さっぱりわからない」と。

あなたが、もし、なんにもわからないまま、議論突っぱねることができるワンマンオーナーならいいでしょう。「ワシにわかるように説明しないお前が悪いんじゃ」と怒鳴りつけることができるなら幸せなことです。社内に一人ITに詳しいのがいて、丸投げしておけばいいや、というならラッキーです。

しかし、私の経験では、その社内に一人いるというITに詳しいという人が、本当にITに詳しいのか、DXを理解しているのかは疑わしい限りです。まったくわかっていないのに、わかっているふりをしていたとしても、その人以外に詳しい人がいなければ、それがバレることもないでしょう。

やはり、ビジネスリーダーたるもの、DXについての基本だけは、きちんと身につけておかねばなりません。言葉の意味さえ、誰よりも深く理解していれば、ありがちな「オレのほうがDX詳しい」というマウンティングにも勝利できるでしょう。

なぜ「X」?

DXとは「Digital Transformation」のことですが、そもそも、「Transformation」 には、「X」がありません。本来は「DT」と書くべきでしょうが、「X」となっています。

これは、英語では「TRANS-」のことを「X」と記すことがあることに起因します。

「Transformation」が「X-formation」と表記される理由は、「Trans」という言葉の由来にあります。この単語はラテン語の「trans」が由来で、「変える」や「超える」といった意味を持ちます。この場合の「trans」は、「cross」という単語と同義です。なんだか難しい話が始まったと思わず、少しだけ我慢してください。すぐに終わります。

「交差する」という意味の「cross」は省略して「X」と書かれ、同じ意味の「trans」も「X」で代用されるようになりました。「DT」よりも「DX」のほうが、文字面がカッコいい。だから、DXが広まったのです。

このあたりの「カッコつけ」が、私はついていけないんですよね。DX業界が以前のベンチャー界隈のような「かっこいいけど、中身がない」と思われてしまう一因と言ったらいいすぎでしょうか(笑)。

formationは、formとationから成り立ちますが、formは「形」、ationが「すること」となりますから、trans(変わる)-form(形)-ation(すること)となり、形が変わること、となります。

ソロバンの一種

ゼロからわかりやすく、ということなので、「digital」の語源についても考えてみます。

digitalは、ラテン語の「指」を意味する「digitus」が語源です。指で数字を数えられるところから、「指」はいつしか「数字の」「計数型の」の意味で使われるようになりました。太古の昔から「アバクス」という日本で言うソロバンがあったようですから、ソロバンをはじいてる(木の上で小石や豆を載せて計算している)姿から、「指」は「数字」の意味となったようです。そして、人類史上にコンピュータが登場し、digitalは「数字形式のデータ」を指すようになりました。

さあ、やっと、すべてを分解することができました。

語源から考えれば、DXは、つまり「ソロバンからはじまる計算の進化したもの」の意味です。

「なんだ、ソロバンの一種かよ、そんなもの、恐れるにたらん」と思えてきませんか。

この「DXは大したことない」という気持ちが大事なのです。DXの話が始まる途端に目が泳いだりしていては、取り残されるだけです。面倒な計算を勝手にやってくれる道具でしかないのですから。あとは会社や自分に適した「道具選び」をすればいいぐらいに思っておけばよいのです。

「君は、DX、DXとさっきから言ってるが、DXのXとはなんのことだ。トランスフォーメーションにXのスペルが入ってないのに、なぜ、DXなのか」と、自称IT通たちの議論を混ぜっ返し、「そんなことも知らないでDXという言葉を使っていたのか」とマウンティングしてやりましょう(笑)

地図とコンパス

根本的な意味がわかれば、DXを使った「道具選び」をはじめたいと思います。

今でこそIT業界の王様・孫正義さんですが、1995年にヤフーに投資するまではITの旗手ですらなく、一介の若手ベンチャーでした。しかし、孫さんにある転機が訪れます。

「インターネットの世界へ飛び込むための『宝探し』をはじめました。宝探しに必要なものは何か?それは『地図』と『コンパス』だと考えた私は、地図にあたる世界最大のパソコン関連の出版社であるジフ・デービスを2300億円で、コンパスにあたる世界最大の展示会であるコムデックスを800億円で、それぞれ買収しました」(『孫正義2.0新社長学』嶋聡著より)

私たちにとっての道具選びを、孫さんは「宝探し」と表現しています。当時のソフトバンクは時価総額2,700億円。そのソフトバンクが合計3,100億円をはたいて「地図」と「コンパス」を買ったというのですから、驚きです。

そして、この「地図」と「コンパス」を使って、金の卵を産むダチョウである「ヤフー」を見つけ出すことになりました。

1996年1月、孫さんはヤフー株式会社を設立。同年4月には国内初の商用検索サイト「Yahoo!JAPAN」を開始。2000年、1日あたりのアクセス数が1億PVを突破し、2月には株価1億6,790万円と日本史上最高値を記録します。のちにZホールディングスと名を変えた現在の時価総額(11月22日現在)は6兆3,930億2700万円です。

孫さんがヤフーを見つけたように、私たちには何を見つけることができるのでしょうか。「これをすれば、儲かる」「これをやれば経費がグッと落ちる」……。目先の損得が何より重要なことはわかります。でも、その先に何があるのか。それを考えないことには、自分たちの組織や会社の成長を加速させることはできないのではないでしょうか。

細々としたDXの中身を知ることが大事なのではありません。第一に考えなくてはならないのは、成長を加速させるものは何か。これを抜きにして、カタカナ用語を駆使してDXをさも知ったような口ぶりで言葉を発するのは、ITオタクであって、ビジネスリーダーではない。

孫さんはこんなことを言っています。

「宝探しにいくのに一番大切なものは、食べ物でもなくて、薬でもなくて、鉄砲でもなくて、地図とコンパスですよ。みなさんが宝探しで無人島に行ったら何が必要か? 地図とコンパスさえあれば、宝をパッと見つけて一日で帰れるわけ」(同書より)

孫さんにならって、私たちも宝探しに出かけましょう。